日本では高齢化の進展により、親や家族の介護を担いながら働く人が年々増えています。多くの人が「仕事を続けたい」という思いを抱く一方で、介護による負担が重なり、やむを得ず離職に至るケースも少なくありません。いわゆる「介護離職」は、本人のキャリアに大きな影響を与えるだけでなく、社会全体にとっても深刻な課題となっています。
本記事では、仕事と介護を両立するために知っておくべき法制度や職場との調整方法、実際の体験談やセルフケアの工夫までを幅広く解説します。これから介護に直面する方も、すでに両立に悩んでいる方も、キャリアを諦めずに前向きな一歩を踏み出すためのヒントを得られる内容となっています。
介護と仕事の両立の現状
日本では少子高齢化が進む中、親や配偶者の介護を担いながら働く「ビジネスケアラー」と呼ばれる人が増加しています。総務省の調査によれば、介護をしながら就労している人は数百万人規模にのぼり、その数は年々増加傾向にあります。特に40代〜50代の働き盛り世代での割合が高く、キャリアの節目に直面する人が多いことが特徴です。
しかし現実には、仕事と介護を両立することは容易ではありません。介護制度の利用方法を知らないまま一人で抱え込んでしまったり、職場の理解不足から調整が難しくなったりするケースもあります。さらに、心身の負担による「介護うつ」やメンタル不調がきっかけで離職に至る人も少なくありません。こうした背景が「介護離職」という社会課題を生み出しています。
介護によってキャリアを諦める前に、できる準備や情報収集は数多くあります。次の章では、「介護離職を防ぐために今から準備できることリスト」 を紹介し、実際にどのような対策が可能なのかを具体的に見ていきましょう。
法制度を理解する
仕事と介護を両立する上で、まず押さえておきたいのが「法制度の活用」です。国は、介護を理由に離職せざるを得ない人を減らすために、労働者が一定の条件を満たせば取得できる制度を用意しています。特に「介護休業制度」と「介護休暇制度」は代表的な仕組みであり、正社員だけでなく契約社員やパートなど非正規雇用の方でも利用できる場合があります。
介護休業制度は、家族が要介護状態になった際に最長93日まで休業できる制度で、分割して取得することも可能です。一方、介護休暇制度は、通院やデイサービスの送迎など、短時間の対応が必要なときに1日単位または半日単位で取得できる仕組みです。どちらも「申請のタイミング」や「対象となる家族の範囲」などの条件が定められており、知らずにいると本来受けられるはずの支援を逃してしまうこともあります。
制度の詳細や利用方法については、こちらでさらに詳しく解説しています。
職場での両立を可能にする工夫
介護と仕事を両立するには、職場の制度や環境を上手に活用することが欠かせません。近年は多くの企業がテレワークや時短勤務などの柔軟な働き方を導入しており、介護を抱える社員が働きやすい環境づくりを進めています。自宅からオンラインで業務を行えば、急な通院やケアにも対応しやすく、負担を軽減することが可能です。特に、時間に融通が利く時短勤務は、日常的に介護を行う人にとって大きな助けとなります。
一方で、制度があっても「どう職場に伝えるか」という点で悩む人は少なくありません。介護の事情を伝えることは勇気がいるものですが、上司や人事部に相談することで業務調整や制度利用につながりやすくなります。その際は、感情的にならずに「どのくらいの時間が必要か」「業務にどのような影響があるか」を具体的に説明することが重要です。これにより、職場の理解を得やすくなり、無理のない両立が実現しやすくなります。
柔軟な働き方の具体例については以下で詳しく紹介しています。
また、職場に伝える際のポイントはこちらで解説しています。
→ [職場に介護のことを伝えるべき?伝え方のポイントと注意点]
| 項目 | 具体的に伝える内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 介護が必要な家族の状況 | 要介護度、主な介護内容(通院付き添い、食事介助など) | 詳細を語りすぎず「どのくらい時間が必要か」を示す |
| 介護の頻度・時間帯 | 例:週3回午前中の通院、夕方に1時間のサポート | 業務との兼ね合いがイメージしやすくなる |
| 利用を検討している制度 | 介護休暇、時短勤務、在宅勤務など | 制度活用で「仕事に支障を出さず両立できる」と説明 |
| 業務への影響 | 参加できない会議、調整が必要な業務の有無 | 「代替案」や「調整方法」も伝えると好印象 |
| 希望するサポート内容 | 在宅勤務許可、勤務時間調整、同僚との業務シェアなど | 要望を一方的に出さず「相談」の姿勢を示す |
ダブルケア(子育て+介護)の課題と解決策
子育てと介護が同時期に重なる「ダブルケア」は、近年社会的に注目されている深刻な課題です。特に30代〜40代の働き盛り世代は、子どもの育児と親世代の介護が重なりやすく、精神的にも肉体的にも大きな負担を抱えやすい傾向があります。時間的な制約が増えることで仕事への影響も避けられず、キャリア形成を諦めざるを得ない状況に追い込まれる人も少なくありません。
このような状況を乗り越えるためには、家庭内での役割分担を見直したり、公的サービスや地域の支援を積極的に活用したりすることが大切です。また、職場にも事情を共有し、柔軟な働き方を相談することで、日々のスケジュールを現実的に組み立てやすくなります。負担を一人で抱え込むのではなく、家族や社会全体で支える仕組みを意識的に取り入れることが、ダブルケアを乗り越える大きな鍵となります。
さらに詳しい工夫や具体的な支援策については、こちらで解説しています。
相談窓口と支援サービス
介護と仕事を両立する上で、「どこに相談すればよいのか分からない」という声は非常に多く聞かれます。そんなときにまず頼れるのが、公的な相談窓口です。代表的なのは 地域包括支援センター で、介護に関する総合相談やサービス利用の調整、専門機関へのつなぎ役を担っています。また、各自治体が設けている 介護相談ダイヤル では、電話で気軽に専門職へ相談できるため、初めて介護に直面した方にも安心です。
一方で、公的な窓口だけでは対応しきれない部分を補うのが民間サービスです。介護サービス事業者による訪問介護やデイサービス、ファイナンシャルプランナーによる介護費用相談など、専門性の高い支援を受けることで、経済的・精神的な負担を軽減できます。これらを組み合わせることで、より現実的で持続可能な介護と仕事の両立が実現しやすくなります。
具体的な相談先については、こちらで詳しくまとめています。
| 項目 | 公的窓口(地域包括支援センター・介護相談ダイヤルなど) | 民間サービス(介護事業者・専門相談など) |
|---|---|---|
| 相談内容の範囲 | 介護制度の説明、サービス利用の案内、地域資源の紹介 | 介護サービスの提供、費用相談、専門的アドバイス |
| 費用 | 基本的に無料 | 有料(サービス内容や相談料によって異なる) |
| 対応の専門性 | 幅広い相談に対応できるが、専門的な領域は別機関へ紹介 | 介護やファイナンシャルなど特定分野に特化 |
| 利用のしやすさ | 全国どこでも設置されており、誰でも利用可能 | 契約や利用登録が必要な場合が多い |
| メリット | 費用負担がなく、まず最初に相談しやすい窓口 | 実際の介護支援や具体的な解決に直結しやすい |
| デメリット | 個別事情への対応には限界がある | 費用がかかる、事業者ごとに質に差がある |
キャリアを諦めないために
介護と仕事の両立に直面すると、「このまま働き続けられるだろうか」と不安を感じる方も多いでしょう。しかし、すぐにキャリアを諦める必要はありません。近年はリモートワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方が広がっており、介護と両立しやすい環境が整いつつあります。自分のスキルや経験を活かしつつ、時間や場所にとらわれない働き方を選ぶことは、キャリアを継続する大きな助けとなります。
また、キャリアチェンジを検討する前にできる工夫も多くあります。たとえば、業務の効率化を意識したり、社内での役割分担を調整したりすることで、負担を軽減しながら働き続けることが可能です。さらに、資格取得やスキルアップを進めておけば、将来的に介護と両立しやすい職種へ移行する際にも有利になります。重要なのは「諦める前に選択肢を知ること」であり、その一歩が将来のキャリアの可能性を広げます。
具体的にどのような働き方や職種が介護と両立しやすいのかは、こちらで詳しく解説しています。
メンタルケアの重要性
介護を担う人は、身体的な負担だけでなく精神的な疲労も蓄積しやすく、気づかないうちに「介護うつ」に陥ってしまうリスクがあります。特に、仕事と介護の両立を続けている人は、自分の時間を犠牲にしながら家族を支えることが多く、慢性的なストレスや孤独感を抱えやすい傾向があります。介護うつは放置すると生活全体に影響を及ぼし、結果的に介護そのものが続けられなくなる危険性もあるため、早めの予防と対処が重要です。
そのためには、まず自分自身のケアを怠らないことが大切です。十分な休息を取る、趣味や運動の時間を確保するなど、小さな工夫が心の安定につながります。また、地域やオンラインでのサポートグループに参加することで、同じ悩みを持つ仲間とつながり、気持ちを共有できることも大きな支えになります。介護者が心身ともに健康でいることこそが、長期的に介護を続けるための前提条件なのです。
具体的なセルフケアの方法や、介護うつを防ぐための実践的な工夫については、こちらで詳しく紹介しています。
| チェックボックス | チェック項目 | 当てはまる場合のサイン | 対処のヒント |
|---|---|---|---|
| □ | 気分が落ち込むことが多い | 以前より笑えない、楽しめない | 信頼できる人に気持ちを話す |
| □ | 睡眠の質が悪い、寝ても疲れが取れない | 夜中に何度も目が覚める、熟睡感がない | 就寝前にリラックス習慣を取り入れる |
| □ | 食欲がない、または過食気味 | 食事の量が極端に減る・増える | 栄養バランスを意識、無理せず少量でも摂取 |
| □ | 集中力が続かない | 仕事や家事でミスが増える | タスクを細分化して一つずつ進める |
| □ | 無力感や罪悪感を感じる | 「自分が介護をちゃんとできていない」と思う | 完璧を目指さず「できていること」に注目 |
| □ | 身体の不調が増えた | 頭痛、肩こり、胃の不調など | 休養や受診を検討する |
| □ | 孤独を強く感じる | 周囲に相談できない、支えがないと感じる | サポートグループや相談窓口を活用する |
✅ 3つ以上当てはまる場合:
介護うつのリスクが高まっているサインです。
✅ 5つ以上当てはまる場合:
早めに専門の相談窓口や医療機関に相談することをおすすめします。
まとめ
仕事と介護を両立するためには、法制度の理解や職場との調整だけでなく、家族の協力や自分自身のメンタルケアまでを含めた総合的なバランスが必要です。介護は一人で抱え込むものではなく、制度やサービスを上手に組み合わせ、周囲に支えられながら続けていくものです。
大きな準備をいきなり始めるのではなく、まずは「制度を確認してみる」「職場に相談できる環境を整える」「気持ちを共有できる人を見つける」といった小さな一歩から始めることが大切です。その積み重ねが、介護離職を防ぎ、キャリアを諦めずに前向きに歩み続ける力になります。
