親の介護が始まると、これまで当たり前だった働き方が続けられなくなる──そんな現実に直面する人は少なくありません。仕事を続けたい気持ちはあっても、「介護が優先でキャリアを諦めるしかないのでは」と感じてしまう人も多いでしょう。
しかし、介護とキャリアはどちらかを選ぶものではありません。近年は、在宅勤務やフレックスタイム、副業・フリーランスなど、介護と両立しながら働ける選択肢が増えています。
この記事では、「キャリアを諦めずに介護と両立するにはどうすればいいか」をテーマに、柔軟な働き方の種類や、両立しやすい職種の特徴をわかりやすく紹介します。働き方を変えることで、家庭も仕事も大切にできる新しいキャリアの形が見えてくるはずです。
介護と仕事の両立が難しくなる理由
介護と仕事の両立が難しいと感じる大きな理由は、「時間」「体力」「心の余裕」の3つが同時に求められるからです。特に在宅介護では、食事・入浴・通院などのサポートが日常的に発生し、想定外の呼び出しや夜間対応が必要になることもあります。その結果、勤務時間の確保が難しくなり、仕事への集中力が落ちる、残業ができない、といった制約が生じやすくなります。
さらに、職場に介護の事情を伝えづらいという心理的なハードルも、両立を難しくしている要因の一つです。「迷惑をかけたくない」「評価が下がるのでは」と感じて相談をためらうことで、サポート制度を使えずに追い込まれてしまうケースもあります。
また、通勤時間の長さや、フルタイム勤務が前提の職種では、柔軟に対応できないことも多いのが現状です。こうした背景から、介護を理由に仕事を辞めざるを得ない「介護離職」も社会問題となっています。両立を目指すには、今の働き方を見直し、柔軟に働ける環境づくりが欠かせません。
介護と両立しやすい働き方の特徴
介護と仕事を両立するためには、「時間」「場所」「働き方の柔軟性」がカギになります。特に近年は、テレワークやフレックスタイム制度の導入が進み、家庭の事情に合わせた働き方を選びやすくなりました。ここでは、介護との両立に向いている働き方の特徴を紹介します。
柔軟な勤務時間が取れる仕事
介護の状況に合わせて勤務時間を調整できる「フレックスタイム制」や「時短勤務制度」がある職場は、両立に非常に向いています。朝や夕方の介助、通院の付き添いなどが発生しても、自分で出勤・退勤の時間を調整できるため、仕事を続けやすくなります。
また、在宅勤務やハイブリッド勤務を取り入れている企業も増加しています。自宅で仕事ができれば、介護中の急な対応にも柔軟に動けるため、精神的な安心感も大きいでしょう。
場所に縛られない働き方
介護のために実家や実家近くに引っ越す人も増えています。そのような場合でも続けられるのが、完全リモートワークやオンライン業務です。IT企業やWeb関連職、ライター、デザイナー、オンライン講師などは、インターネット環境さえあれば場所を問わず働くことができます。
こうした働き方は、通勤時間を介護時間に充てられるというメリットもあり、心身の負担を軽減できます。
プロジェクト単位で働くフリーランス型
「決まった時間に働くのが難しい」という人に向いているのが、フリーランスや業務委託という働き方です。納期や成果物を基準に仕事を進められるため、自分の生活リズムに合わせて働けます。
Web制作、動画編集、ライティング、翻訳などの分野は、在宅で完結できる業務が多く、介護との両立にも向いています。最初は副業から始めて、将来的に本業化するというステップを踏む人も少なくありません。
介護と両立しやすい職種・業種の具体例
介護との両立を考えるとき、ポイントとなるのは「働く時間や場所を自分でコントロールできるかどうか」です。ここでは、実際に介護をしながら働いている人に選ばれている職種や業種の特徴を紹介します。
在宅ワーク中心の職種
自宅で仕事が完結できる在宅ワークは、介護との両立にもっとも適しています。パソコンとインターネット環境があればできる仕事が多く、通勤時間を介護に充てることも可能です。
代表的な職種には、Webライター・デザイナー・プログラマー・オンライン秘書・データ入力などがあります。これらの仕事は、スキルを磨くことで在宅でも安定した収入を得やすく、長期的なキャリア形成も可能です。
シフト制・短時間勤務が可能な仕事
一定の勤務時間を確保するのが難しい人には、シフト制や短時間勤務のある職種が向いています。医療事務やコールセンター、販売、介護職(パート勤務)などは、自分の生活に合わせて働けるケースが多いです。
また、地域密着型の仕事を選べば、通勤時間の短縮や急な帰宅にも対応しやすくなります。介護と両立するために、勤務先との距離やシフトの柔軟性も重要なポイントです。
企業内で柔軟に働ける職種
近年は、企業側も「介護と両立できる人材の確保」を重視し始めています。特に総務・人事・経理などのバックオフィス業務は、テレワーク化が進んでおり、在宅勤務を取り入れやすい職種です。
フルタイムにこだわらず、週3〜4日の勤務や時短契約を選ぶケースも増えています。職場内で制度が整っているかを確認し、必要に応じて人事担当者へ相談することで、自分に合った働き方が実現しやすくなります。
キャリアを続けるためにできる工夫と準備
介護をきっかけに働き方を変えるとしても、「キャリアを諦めない」ためには、計画的な準備が欠かせません。ここでは、両立を長く続けるために今からできる3つの工夫を紹介します。
介護制度と両立支援制度を活用する
介護と仕事を両立するうえでまず知っておきたいのが、「介護休業制度」や「介護休暇」「短時間勤務制度」などの公的・企業内制度です。これらは労働者の権利として法律で定められており、条件を満たせば誰でも利用できます。
たとえば、介護休業は最長93日まで取得でき、分割して使うことも可能です。また、厚生労働省が推進する「両立支援コーディネーター」に相談すれば、自分の状況に合った働き方の調整や制度の利用方法をアドバイスしてもらえます。
スキルを磨いて「働き方の選択肢」を増やす
介護中でも自分のキャリアを伸ばすためには、在宅で学べるスキルアップを意識しましょう。オンライン講座や通信講座を利用して、Web制作、デジタルマーケティング、簿記、ライティングなど、将来リモートでも働けるスキルを身につけるのがおすすめです。
こうしたスキルは、転職や副業、フリーランスへの転向にも役立ちます。介護期間を「キャリアの中断期間」と捉えるのではなく、「スキルを蓄える時間」として前向きに活用することで、次のステップにつなげることができます。
家族と支援体制を整える
介護と仕事を両立させるには、家族内での協力体制を整えることも重要です。「誰が」「どの時間帯に」「どの役割を担うのか」を明確にしておくと、負担が一人に集中するのを防げます。
また、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談すれば、デイサービスやショートステイなど、利用できる外部支援サービスを紹介してもらえます。家庭内だけで抱え込まず、地域や専門家の力を借りることで、仕事との両立がより現実的になります。
介護とキャリアを両立させた人の実例紹介
実際に介護と仕事の両立を実現している人たちは、どのような工夫をしているのでしょうか。ここでは、さまざまな働き方を選んだ3人のケースを紹介します。現実的な視点から、自分に合った働き方のヒントを見つけてみましょう。
例1:在宅勤務で働く40代女性(Webライター)
母親の介護が必要になり、外で働くことが難しくなった40代女性。もともと文章を書くことが好きだったため、在宅でできるWebライターの仕事を始めました。
最初は副業からのスタートでしたが、少しずつ案件を増やし、今では複数の企業メディアの記事執筆を担当。時間の自由度が高く、通院付き添いの日も仕事を調整できるため、介護と仕事のバランスを取りやすいと話しています。
例2:フリーランスに転向した50代男性(エンジニア)
父親の介護をきっかけに、会社員からフリーランスのシステムエンジニアへ転身した男性。会社勤務時代は長時間労働が続き、介護との両立が困難でしたが、独立後は自分で仕事量をコントロールできるようになりました。
収入は波がありますが、リモート案件を中心に働くことで、家族との時間を確保。自身の経験から、「介護を理由にキャリアを手放す必要はない」と実感しているそうです。
例3:時短勤務で復職した女性(経理職)
介護離職を経て、1年後に時短勤務で同じ会社に復職した女性。復帰前に人事担当者と何度も話し合い、業務の分担やリモート勤務の導入を調整しました。
今では週4勤務・1日6時間の働き方を続けながら、社内でのキャリアアップも目指しています。「無理をせず、制度を活用して続けることが大切」と語ります。
まとめ|キャリアを諦めず、自分に合った働き方を選ぼう
介護と仕事の両立は、確かに簡単なことではありません。けれども、時代の変化とともに、働き方の選択肢は確実に広がっています。リモートワーク、副業、時短勤務、フリーランスなど、介護をしながらも自分のキャリアを続ける道はたくさんあります。
大切なのは、「無理をして続ける」ことではなく、「自分が長く働ける環境をつくる」ことです。介護支援制度を活用し、職場と話し合い、必要であれば働き方そのものを見直す。そうした一つひとつの行動が、結果的にあなたのキャリアを守ることにつながります。
介護は一時的なライフイベントですが、キャリアは人生を通して築くものです。環境が変わっても、あなたの経験やスキルは確かに積み重なっています。焦らず、柔軟に、自分に合った働き方を見つけていきましょう。
