「要支援」と「要介護」って何が違うの?8つの区分の状態と受けられるサービス

介護保険の認定結果は「要支援1・2」と「要介護1〜5」の全8区分。名称は知っていても、実際に何が変わるのか——利用できるサービス、費用の枠(区分支給限度額)、ケアプランの窓口、見直しのタイミング——までは意外と把握しづらいものです。本記事は、はじめての方でも最短で全体像をつかめるよう、区分ごとの状態像とサービスの違いを整理し、申請〜認定〜利用までの具体的な進め方を家族目線でまとめました。迷ったときに「今はどの段階で・何を優先すべきか」が判断でき、今日から動ける実務ヒントを盛り込んでいます。

結論から言えば、要支援は「悪化を防ぎ自立を守る」予防重視、要介護は「日常生活を安全に続ける」介助重視という設計思想の違いがあります。どちらもゴールではなくスタートであり、状態変化に合わせて柔軟にプランを組み替えるのがコツ。費用は原則1〜3割負担、在宅は月ごとの上限枠内で組み合わせ、施設は食費・居住費などの加算も意識します。以下、区分の見方と使い方を順に解説します。

要支援/要介護の基本:設計思想と窓口の違い

要支援は、日常の多くが自立している一方で転倒や栄養、口腔、家事の一部に不安が出始めた段階に向けた「予防の仕組み」です。窓口は地域包括支援センターで、筋力・栄養・口腔・社会参加の四本柱を中心に、総合事業(介護予防・生活支援)を活用します。目標は「できる」を維持し増やすこと。短時間・低強度の通い(運動・口腔体操)や生活援助の活用、見守り機器や住宅環境の軽微な調整など、重くならないうちの“先手”が設計思想にあります。家族としては「今が一番元気」と捉えず、先回りで環境調整を行うほど、将来の要介護化のスピードを緩めやすく、介護離職や急変を防ぐ下地ができます。

要介護は、入浴・排泄・移乗・食事・更衣・服薬などで継続的な介助が必要になった段階に向けた「生活を支える仕組み」です。窓口は居宅介護支援事業所(ケアマネ所属)で、在宅の時間割に合わせ訪問介護・訪問看護・通所介護/リハ・短期入所・福祉用具・住宅改修などを組み合わせます。ここでのカギは「安全」「夜間」「介護者の休息」の三点に資源を配分すること。はじめから上限一杯ではなく“小さく始めて2〜4週間で見直す”と定着率が上がり、無駄な自己負担も抑えられます。いずれの区分でも、状態が変われば更新を待たず区分変更申請でフィットさせるのが実務の基本です。

地域包括支援センターとケアマネの役割

地域包括支援センターは、要支援段階の総合相談・予防プランの要。運動・栄養・口腔・社会参加のメニューを地域資源と接続し、生活機能を底上げします。一方、要介護段階ではケアマネがアセスメント→ケアプラン→担当者会議→同意→開始の流れを回し、複数サービスの時間帯調整・事業所選定・費用見通し・医療連携まで舵取り。両者の連携がスムーズだと、要支援→要介護への移行時も隙間なく支援がつながり、入退院や急変時の連絡網も機能します。

目的の違いが選ぶサービスを変える

要支援は「悪化の芽を摘む」が目的で、短時間通いと生活援助・見守りが主役。要介護は「事故なく暮らす」が目的で、身体介護・夜間不安対策・医療的観察の配合が主役です。同じ“入浴”でも、要支援は体力保持+安全教育、要介護は転倒・ヒートショック・皮膚管理のリスク低減が焦点。目的が違えば、頻度・時間帯・担い手・用具の選定が変わる点を押さえましょう。

  • 要支援:予防重視/地域包括が窓口/短時間・低強度中心
  • 要介護:介助重視/ケアマネが窓口/時間割に沿って多職種連携
  • どちらも「小さく始めて早めに見直す」が費用対効果◎

8区分の状態像早見表と見分け方

区分は「できる動作」「見守りの要否」「介助の頻度」などを総合して決まります。同じ区分でも、昼と夜、家の造り、同居状況、合併症で必要支援は変わるため、表はあくまで“会議の出発点”。大切なのは、具体的な頻度記録(夜間トイレ回数、転倒・失禁・食事量、睡眠の質、せん妄の時間帯など)で“暮らしの実態”を可視化し、プランに落とすことです。記録があるほど、認定の精度が上がり、サービスのミスマッチが減ります。要支援1・2は予防メニューを組み合わせ、要介護1・2は部分介助+見守り、要介護3は移乗・立位の安定化と夜間対策、要介護4・5は全介助+医療的観察の配合が軸。境目は「見守り中心か」「恒常的な身体介助が要るか」が目安です。

次の表は現場感覚に基づく要点整理です。判定は自治体の審査会が行うため個別差がありますが、家族が“今の優先課題”を捉える助けになります。要支援の段階では「運動・口腔・栄養・社会参加」をセットで、要介護では「日中の見守り」「夜間の排泄と転倒」「介護者の休息」を三本柱に。どの段階でも口腔・嚥下・栄養は再入院予防に直結し、結果的に費用抑制にも寄与します。迷ったら、最も困る時間帯に資源を集中し、慣れたら活動性や楽しみの時間へと拡張する流れが定着の近道です。

区分 状態像(めやす) 主な焦点
要支援1 基本自立だが家事・外出に不安、転倒リスク小〜中 運動・口腔・栄養、生活援助の最小導入
要支援2 入浴や掃除に負担、見守りの場面が増加 環境調整・活動量確保・社会参加
要介護1 一部で身体介助、外出・更衣・入浴で支援 転倒予防、生活リズム、用具導入
要介護2 排泄・移動に介助、見守り+部分介助が常態 排泄安定、入浴安全、住宅改修
要介護3 立位保持・移乗に介助、夜間見守りが必要 誤嚥・褥瘡予防、導線最適化
要介護4 多くのADLで全面介助、車いす主体 ポジショニング、拘縮・口腔管理
要介護5 ほぼ全介助、医療的観察を要する 嚥下・栄養・呼吸管理、24時間安全

要支援(1・2)を逃さないコツ

要支援期は「まだ大丈夫」が落とし穴。歩数・食事量・口腔清掃・外出予定を“見える化”し、週1〜2回の通いと短時間の生活援助で生活にリズムを作ります。転倒予防手すり、滑り止め、段差解消、夜間センサーなど“小さな投資”が重度化を遅らせます。

要介護(1〜5)の優先順位づけ

要介護は“時間帯の山場”から資源配分。日中は通所で活動+入浴、夕~夜は訪問介護と用具で排泄・移乗を安全化、医療的観察は訪問看護を核に。家族の休息確保にショートステイを計画的に入れると、在宅継続力が上がります。

受けられるサービスの違い(在宅・施設・地域)

要支援は、地域包括が設計する介護予防・総合事業が中心。通い(運動・口腔・栄養)、訪問(生活援助)、フレイル予防の教室、地域サロン参加など、短時間で“できる”を維持するメニューが柱です。要介護は、訪問介護での身体介助、訪問看護の医療的観察、通所介護/リハでの入浴・機能訓練・交流、短期入所(家族の休息・緊急時)、福祉用具と住宅改修での省力化が選択肢に加わります。医療的ケアがある場合は、気管切開・酸素・経管栄養・褥瘡などの管理を訪問看護と主治医で連携。夜間不安はベッド周辺の導線最適化とポータブルトイレの配置で大幅に低下します。

施設系は目的で選びます。長期の生活の場を重視するなら特別養護老人ホーム、在宅復帰を目指すなら介護老人保健施設、医療的観察+生活なら介護医療院。短期の家族負担軽減はショートステイを月間計画に組み込み、在宅と施設をシームレスに併用。いずれも重要事項説明書・契約書で夜間体制・緊急時・看取りの方針・追加費用を必ず確認し、書面で保管しましょう。サービスは一度決めたら固定ではなく、2〜4週間ごとに微調整するほどフィット感が増し、満足度も上がります。

在宅サービスの組み立て方

「安全」「夜間」「休息」を優先し、通所(活動・入浴)+訪問介護(排泄・更衣)+訪問看護(観察・指導)+用具(手すり・ベッド・ポータブルトイレ)を時間割に沿って配置。初月は小さく、次月に微調整が鉄則です。

施設サービスの選び方

“暮らす/戻る/医療”のどれを主軸にするかで、特養・老健・介護医療院の適合性が決まります。見学時は夜間人員・看護体制・緊急搬送基準・面会ルール・看取りの方針と費用内訳をチェックしましょう。

  • 要支援:通いと訪問で“できる”を維持
  • 要介護:身体介護・夜間対策・医療連携を配合
  • 施設系:目的(暮らす/戻る/医療)で選定

申請〜認定〜見直しの流れと実務ポイント

スタートは市区町村窓口または地域包括支援センターへの相談→申請です。申請日が給付の起点になるため、迷ったら先に申請。その後、認定調査(自宅/病棟での聞き取り・観察)と主治医意見書の収集を経て、審査会で区分が決定されます。調査日は“良い顔”をせず普段どおりに。立ち上がり・移乗・入浴・排泄・更衣・服薬の実演、夜間の様子、転倒・失禁・食事量・睡眠の記録、使用中の用具・改修状況を提示すると実態が伝わります。入院中は退院調整看護師/MSWと情報共有し、家屋調査や外泊訓練を前倒しにすると在宅初日から安全が確保できます。

区分は固定ではなく、入退院・転倒増加・夜間介助の増加・体重変化・BPSD顕在化など変化があれば、更新を待たず区分変更申請が可能です。非該当・低め判定と感じたら、頻度記録と主治医所見を補強して異議申立て/再申請を。プランは“初月小さく→2〜4週で見直し会議”のサイクルを定例化し、合わない事業所や時間帯は遠慮なく切替え。地域資源の引き出しが多いケアマネほど調整力が高く、連絡の速さ・医療連携の経験・説明のわかりやすさが選定基準になります。

申請時に用意したい資料

本人確認書類、被保険者証、主治医情報に加え、転倒・夜間介助・失禁・食事量・服薬ミスなどの頻度記録、写真/動画、福祉用具のリストが有効。短時間で要点を伝えられます。

非該当・軽い判定時の対処

生活実態の記録と主治医の所見を更新し、異議申立て/再申請を検討。並行して障害福祉・医療保険の訪問看護等の他制度で“つなぎ”を確保し、安全を落とさないのが現実的です。

工程 家族がやること
申請 窓口/郵送/オンライン。申請日=起点。必要書類を準備
認定調査 普段どおりを見てもらう。頻度記録・写真・用具提示
主治医意見書 嚥下・栄養・夜間症状・合併症を共有し実態反映
判定→結果 非該当/軽い場合は異議・再申請。状態変化は速報

費用と区分支給限度額:家計を守る基本

在宅サービスは区分ごとに「月の保険適用上限(区分支給限度額)」があり、その範囲内は自己負担1〜3割、超過は全額自己負担です。初月から上限ぎりぎりに詰め込むより、“最も困る時間帯”を優先し小さく開始→2〜4週間で微調整がコスパ良。施設入所では介護サービス費(1〜3割)に加え、食費・居住費・日常生活費がかかりますが、住民税非課税等で負担限度額認定(食費・居住費軽減)が使える場合があります。月の自己負担が一定額を超えると高額介護サービス費の払い戻し対象に。ケアマネと「負担割合証」「限度額」「軽減制度」を初回から確認し、見積書で実額を把握するのが鉄則です。

医療との併用も家計に影響します。訪問看護は医療保険/介護保険どちらもルートがあり、主治医の指示や状態に応じて選択。嚥下・口腔・栄養の介入は再入院予防に直結し、結果的に支出抑制。福祉用具はレンタル中心にして、買い取りは最小限に。住宅改修は事前申請→承認→施工の順を守り、写真・図面・寸法・見積のセット提出で審査をスムーズに。費用は“点の節約”より“再入院や事故を防ぐ線の投資”が有効で、介護者の腰痛予防(移乗補助具)や夜間転倒の削減(照明・手すり)は費用対効果が高い分野です。

在宅費用の考え方

限度額内で「安全・夜間・休息」を優先配分。通所は“活動+入浴”、訪問介護は“排泄・更衣・清拭”、訪問看護は“観察・指導”、用具・改修は“省力化”。超過しない設計でムダを抑えます。

軽減制度の活用

負担限度額認定(施設の食費・居住費軽減)、高額介護サービス費(在宅の払い戻し)、医療・介護の合算制度などを早期に確認。証類のコピー管理と更新期限のメモで取りこぼしを防ぎましょう。

  • 区分支給限度額:月の上限。超過は全額自己負担
  • 負担割合証:1〜3割区分。初回に確認
  • 高額介護サービス費・限度額認定:家計のセーフティネット

よくある質問(FAQ)

「要支援」と「要介護」の違いや8区分の見方、サービスの選び方や費用・手続きなど、よくある疑問にお答えします。各項目をクリックすると回答が開閉します。

Q. 「要支援」と「要介護」は何が一番違うの?窓口はどこ?

A. 目的と窓口が異なります。要支援は「予防」が目的で地域包括支援センターが担当。要介護は「生活を安全に続ける」ための介助が主で、居宅介護支援事業所(ケアマネ)がケアプランを作成します。

Q. 8区分(要支援1・2/要介護1〜5)はどう決まる?境目の目安は?

A. 認定調査と主治医意見書を基に審査会が総合判定します。境目の目安は「見守り中心(要支援)」か「恒常的な身体介助が必要(要介護)」か。夜間の排泄・転倒、移乗の可否などの記録が有効です。

Q. 要支援でも訪問介護やデイサービスは使えるの?何が違う?

A. 使えますが枠組みが違います。要支援は介護予防・総合事業の訪問型(生活援助中心)や通い(運動・口腔・栄養)が中心。要介護は身体介護を含む訪問介護や通所介護、短期入所、訪問看護など選択肢が広がります。

Q. 月の上限「区分支給限度額」はどう考えればいい?超えたらどうなる?

A. 在宅サービスは区分ごとの月額上限内が保険適用(自己負担1〜3割)、超過分は全額自己負担です。初月は小さく開始し、2〜4週間で見直すのが効率的です。

Q. 判定が「非該当」または軽いと感じたら?再申請できる?

A. 異議申立てや区分変更申請が可能です。転倒や夜間介助の頻度、食事量などの生活記録と主治医の所見を補強して実態を伝えると再判定につながりやすいです。

Q. 施設サービス(特養・老健・介護医療院)は誰が利用できる?

A. 原則として要介護1以上が対象です。目的により選び方が変わります。長期生活なら特養、在宅復帰を目指すなら老健、医療的観察が必要なら介護医療院が適しています。

Q. 介護費用を抑える制度はある?

A. 在宅は高額介護サービス費(払い戻し)、施設は負担限度額認定(食費・居住費軽減)があります。負担割合証と上限額はケアプラン作成時に必ず確認してください。

Q. 状態が変わったら有効期間中でも区分変更できる?

A. 可能です。入退院や転倒増加、夜間介助の増加など変化があれば、更新を待たず区分変更申請を行えます。生活記録と主治医所見の更新が効果的です。

Q. サービスや事業所は途中で変更できる?

A. 変更できます。理由を具体的に伝え、ケアプランを更新して切り替えます。複数事業所を比較し、対応の早さや連携力を基準に選ぶと安心です。

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