日本では高齢化が進む中、親や家族の介護を担いながら働く「ビジネスケアラー」が年々増えています。仕事と介護を両立させたいと考えても、時間的・体力的な負担から離職を余儀なくされるケースは少なくありません。
こうした課題に対する有効な選択肢のひとつが、在宅勤務や時短勤務といった柔軟な働き方です。通勤時間を減らしたり、介護に必要な時間を確保できたりする点で大きな助けとなりますが、同時に収入や職場との調整といった課題も存在します。本記事では、在宅勤務・時短勤務制度の概要やメリット・デメリット、さらに大企業や中小企業の導入事例を交えながら、介護との両立にどう活かせるのかをわかりやすく解説します。
介護と仕事の両立における課題
日本では高齢化の進展に伴い、働きながら家族の介護を担う人が増えています。厚生労働省の調査でも、いわゆる「ビジネスケアラー」の数は年々増加しており、40代〜50代の働き盛り世代を中心に大きな社会課題となっています。介護は突然始まることも多く、予期せぬタイミングで日常生活や仕事に影響を及ぼす点が特徴です。
しかし現実には、仕事と介護の両立は容易ではありません。介護離職に至る背景には、介護にかかる時間や体力的な負担に加え、職場で十分な理解が得られないことも挙げられます。夜間や休日に及ぶケアで心身が疲弊し、業務に集中できなくなるケースも少なくありません。結果として、制度を十分に活用できないまま仕事を辞めざるを得ない人が増えているのが現状です。
こうした課題を解決するためには、従来の働き方にとらわれず、在宅勤務や時短勤務といった柔軟な制度の活用が欠かせません。時間や場所の制約を緩和することで、介護とキャリアの両立を現実的に進める道が開かれていきます。
在宅勤務と介護の両立
在宅勤務は、オフィスに出社せずに自宅から業務を行う働き方であり、近年はコロナ禍をきっかけに一気に普及しました。もともとは働き方改革や育児との両立を目的に注目されてきましたが、介護との両立においても大きな可能性を持っています。特に、通勤時間を削減できる点や、自宅で介護と仕事を両立できる点は介護者にとって大きなメリットとなります。
一方で、在宅勤務がすべての業種や職種で導入できるわけではなく、業務の性質や会社の体制によって利用に制限があるのも現実です。また、自宅にいる時間が増えることで介護の負担を感じやすくなるケースもあり、心理的な切り替えの難しさや孤立感が課題になることもあります。在宅勤務を介護と両立させるためには、制度の活用に加えて、自分自身の働き方や家庭内での工夫も求められるのです。
在宅勤務の概要
在宅勤務とは、自宅にパソコンや通信環境を整備し、オンライン会議やクラウドシステムを活用して業務を遂行する働き方です。コロナ禍によって企業がテレワーク環境を急速に整備したことから、多くの業種で導入が進みました。介護と仕事を両立する観点でも、自宅で業務を行いながら介護にも対応できる仕組みとして注目されています。
在宅勤務における介護に対するメリット
在宅勤務の最大のメリットは、通勤時間を介護に充てられることです。これにより、送り迎えや食事の準備、服薬の管理など、日常的なケアに時間を回せるようになります。
また、自宅にいることで家族の体調変化にすぐ気づき、急な介護対応に柔軟に対応できる点も大きな利点です。
在宅勤務における介護に対するデメリット
一方で、在宅勤務はすべての業務に適しているわけではありません。製造業や対面接客を伴う仕事など、業務内容によっては導入できないケースが多く見られます。
また、自宅で働き続けることで、職場とのつながりが希薄になり、孤立感やオンオフの切り替えが難しいと感じる人も少なくありません。これらのデメリットを理解したうえで、必要に応じて出社や外部サポートを取り入れる工夫が求められます。
時短勤務と介護の両立
時短勤務は、所定労働時間を短縮することで、家庭の事情に合わせて柔軟に働ける制度です。これまで主に育児を目的に利用されることが多かった制度ですが、近年では介護にも適用されるケースが増えています。介護は突発的な対応や日常的なサポートが必要になるため、勤務時間を短縮できる時短勤務は、仕事を続けながら介護に時間を充てられる現実的な選択肢といえます。
一方で、時短勤務にはメリットだけでなく課題も存在します。収入の減少や、周囲の同僚に業務負担が偏るといったデメリットが生じる場合もあるため、利用を検討する際には自分の生活全体のバランスを踏まえて考えることが重要です。制度の特徴を理解し、職場と十分に相談したうえで活用することで、無理のない形で介護と仕事を両立することができます。
時短勤務の概要
時短勤務は、1日の所定労働時間を短縮して勤務できる制度です。法律で定められた育児・介護休業法に基づき、育児だけでなく介護を目的とした時短勤務を導入している企業も増えています。制度の内容は会社ごとに異なりますが、介護を理由に労働時間を減らし、その分を介護や家事に充てられる点が特徴です。
時短勤務における介護に対するメリット
時短勤務の大きなメリットは、介護や家事のための時間を確保できることです。通院や食事の準備、身の回りのサポートなどに時間を割くことができ、介護者自身の負担を軽減します。また、勤務を完全に辞めるのではなく労働時間を調整することで、無理なく働き続けられる点も魅力です。キャリアを維持しつつ介護に向き合えるため、離職リスクを下げる効果があります。
時短勤務における介護に対するデメリット
一方で、時短勤務を利用すると給与が減少するリスクがあります。勤務時間が短くなるため、手取り収入や賞与に影響が出ることも少なくありません。また、労働時間が減った分、周囲の同僚に業務負担が増える可能性もあります。そのため、利用前に職場での役割分担を見直し、円滑な業務遂行ができるよう調整することが大切です。
制度を活用するためのポイント
在宅勤務や時短勤務は介護と仕事の両立を支える有効な仕組みですが、制度を知っているだけでは十分とはいえません。実際に活用するためには、自分の状況に合った働き方を検討し、会社のルールや支援制度を正しく理解しておく必要があります。職場の体制や文化によっては申請のしやすさに差があるため、事前の確認と準備が欠かせません。
また、制度を単独で利用するよりも、介護休業や介護休暇といった法的な支援や、家族・外部サービスとの協力を組み合わせることで、負担をより軽減できます。自分だけで抱え込まず、周囲を巻き込みながら柔軟に制度を使うことが、長期的に無理なく働き続けるための重要なポイントです。
まとめ
在宅勤務や時短勤務は、介護と仕事の両立を実現するための大きな支えとなる制度です。通勤時間を削減できたり、介護に必要な時間を確保できたりと、働き続けたい人にとって有効な手段である一方、収入面や職場の調整といった課題も存在します。メリットとデメリットを正しく理解し、自分や家族の状況に合った形で利用することが大切です。
また、これらの制度は単独で使うよりも、介護休業や介護休暇といった法的な仕組み、さらには家族や外部サービスとの連携と組み合わせることで、より現実的で持続可能な働き方を実現できます。制度を知識として持つだけでなく、実際に行動に移すことで、介護とキャリアの両立が可能になるのです。
